息子の作品
今年はTさんからの年賀状が来なかった。
こちらからはほとんど出さないのだが、滅多に会わないひとや
ずうっと会っていないひとには丁寧な葉書を出している。
なので、こちらの近況を記して投函した。
Tさんは、毎年決まって干支の水彩画の年賀状をくれる。
毎年同じタッチで、文章も短い簡素なものであるがすごいのは
なんといってもすべてが手描きなのである。
結婚する少し前に、Tさんの画のモデルになったことがある。
律儀にモデル料もくれたうえ、仕上がった画も贈ってくれた。
その真心にはシビれたが、パッとしない絵であったので長い間しまってある。
さて、Tさんから近況が届いた。母ひとり子ひとりで暮らしているのだが、
昨年母上が入院し、家業は立て込み、胃を壊して痩せてしまったと書いてある。
Tさんは背が高くもともと細身だが、実業団でサッカーをやっていたらしく、
筋肉質である。そのうえ絵も上手で優しくて…となると相当モテそうであるが、
顔つきはラクダに似ているのだった。
性格ははっきりしているが態度は鷹揚で、カッコいいとはいえないけれど
一緒にいると和んだ。美術館へ行ったり、彼の絵の個展の手伝いをしたこともある。
お節介に友人を紹介しデイトさせたこともあったが、結局独り身だ。
お見舞いに早速お腹によさそうなものを見繕って送った。
節分の豆と板チョコ一枚もつけた。
数日後、Tさんから茶封筒に白無地の便箋が届いた。
おまけに彼の工房で作られた革製品のカードケースも入っていた。
「オリジナルのカードケースです。知りあいのお年寄りの方にでもどうぞ。
ご主人によろしく」
…まったく。ご主人ってアンタの友だちでしょ。
お年寄りにって、あたしにじゃなかったのかい!
独特のリズムの素朴すぎる手紙を読んで、伴侶とゲラゲラ笑った。
Tさん、調子がよくなったら、また一緒に飲もう。
お母さまにもよろしくね。